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あるふぁ波
日記&創作小説&イラスト&メンタル&VIP
妊娠中のウサギさん小説
 サラスヴァティから去って数日…さんざん人様に書いてくれ書いてくれとせっついておいてアレだが、自分なりに妊娠中の小説を思いついたので早速書いたわけで。

 頼んでおいたくせに去ってしまって、ド兄さんとバナナの人ごめんよ。もうサラスものが尽きてしまったし頼んだものも書かれないとわかったら、避難所に行く理由もなくなってしまったんだ。

 さて追記は、レイプ描写はないけどそういう成り行きで妊娠したウサギさんのお話です。
 3月13日ちょっと改変。


 妊娠が判明するや、男の訪問はぴたりと止まった。
 夜が来ても私の時間を脅かす者は無い。もう蹴られない、殴られない、辱めも受けない!
 ほとんど妊娠したという自覚が無い。しかし、まだ2ヶ月にしかならないこのお腹の子が育ち、ちゃんと産まれて来さえすれば私はここから去ることができる。
 あの男は、ただ私に子を産ませるためだけに買ったと言った。
 産みさえすれば、体を大事にして、この貴重な子を流れないようにしっかり育てて、産みさえすれば、私はここから逃げることができる、田舎に帰ることができる。
 私はもう一度田舎に帰ることだけを夢見てこの2ヵ月に及ぶ陵辱に耐え、暴力にも耐えたのだ。
 だから産んでみせる。かならず帰ってみせる。

 そのうちに私はひどくお腹がすくようになったのに気づいた。
 昼と言わず夜と言わず何か食べずにはいられない。それほど好きではなかったお肉が特に食べたくなる。
 妊娠すると嗜好が変わるのだと説明された。食べられるのなら食べたほうがいいからと食べたいだけ食べた。
 よく食べ物が受け付けられなくなって吐く人や食欲がなくなる人もいると聞いていたが、私はなんでもパクパク食べた。
 一日5食も6食も食べた。
 なのに、少しの段差にでもつまづいて転んだりしたらせっかくの子が流れてしまうかもとろくに運動もしなかったのですぐに太った。
 太りすぎるのはよくないと言われ、少しだけ庭を散歩したり屋敷内を歩くようになった。
 外出は許されなかった。

 この屋敷には週に二回、食材を届けに荷馬車に乗って来るおじさんがいる。
 近所で野菜や鶏を育てているらしい。この人に頼めばここから連れ出してくれるだろうか。
 でも連れてってと言えない。
 初めてこの屋敷に来たとき、食事を運んできたおばあさんに言われた「逃げないでくださいよ」という言葉が胸を締め付けていた。まったく身寄りがないのだという。私の世話という仕事をもらって、やっと生きているのだという。私が逃げれば野垂れ死ぬしかないという。
 おじさん、助けてよ、私も外に連れてってよ。言えない。逃げられない。
 遠ざかっていく馬車の音に耳をふさいでひたすら泣いた。

 定期的に医者に診てもらったが、順調に育っているとのことだった。
 肉体的には問題なし、ごはんもちゃんと食べている、きっと健康な子が生まれる。そうしたら私は田舎へ帰れる。
 不安なことは無いかと聞かれるが、いつも特に無いと嘘をついた。
 しょっちゅう夢を見る。
 田舎に帰った私を、みんなが拒絶する夢。

――そのお腹は何?
――レイプされたんでしょ?
――なのに産んだの?
――あの男の子供を産んだの?
――愛妾?
――汚れちゃったね。
――よく帰ってこれたよね。
――それでどうやって先生になれるの?
――もう普通の人生なんて無理でしょ。
――お嫁にもいけないしね。
――うちに帰ってこないでよ。
――なんで生きてるの。

 それから、小さな子供の声が、泣きながら。

――お母さん
――私を産まないで!

 何か言おうとするのに声が出ず、冷や汗と動悸とともに飛び起きる。
 ゴドッゴドッゴドッ…と激しい音を立てて鳴る心臓を押さえて、「大丈夫大丈夫大丈夫…」と自分に言い聞かせる。
 みんなはそんなことは言わない、受け入れてくれる、私は気持ちまで貴族の物になったわけじゃない…。
 女の体は、愛情のひとかけらも無い行為でも妊娠するようにできている。私はただの被害者なんだから、話せばわかってくれる。
 にも関わらずこの不安はなんだろう。

 安定期に入ったころ、母から手紙が来た。内容を読んで笑った。
 これは何?私が妊娠したことで、お父さんが投資に成功した?お兄さんたちの出世がほぼ確定?お母さんは記念に大粒のダイヤを買いました?
 何もかも、私を売った金でできたことじゃないか!!!
 丈夫な子を産めと締めくくられたその手紙を、私はすぐに焼いた。
 これが私の母。
 「あなたを驚かせようと思って黙っていたけれど…」
 うそ、私を逃がさないために黙っていた。
 「あなたが幸せそうで本当に嬉しいわ」
 顔を見に来たこともないくせに。
 「赤ちゃんが本当に楽しみです」
 なら産着の一つも送ってくれば?
 「私たちも勝手のわからないところへあなたを嫁がせるのは不安でしたが…」
 でも売ったでしょう!?
 そうして幸せでいるんでしょうお父さんもお母さんも!!

 言われなくたって丈夫な子を産んでみせる。そして実家なんかじゃない、田舎へ帰ってやる。産みさえすれば私の役目は終わり。それでおしまい。
 あとほんの数ヶ月の我慢。それでおしまい。さよなら。

 「お母さん!」

 少しずつ膨らんできていたお腹を撫でようとしたとき、ふいに出た言葉だった。
 そしてその言葉に呼応するように、お腹の中で何か動いた。赤ちゃんが動いた。

 「お母さん!お母さん!」

 私が叫んでいるのか、お腹の赤ちゃんが私の口を借りて叫んでいるのか、涙が出てベッドに臥せった。赤ちゃんは確実にぴく、ぴくと動いている。
 ああ、そうか。不安の正体がわかった。
 この子はもう私の体が育てている、私の子、自分の子だという自覚が、驚くほど無かったことに気づいた。
 お父さんもお母さんも、誰も助けてはくれない。
 父親が誰であろうと私の子には変わりない。きっとこの先この子だけが私の味方。この子にとっても私だけが味方。
 なのに、産んだら自分だけ田舎へ帰ろうなんて、それは、おかしい。
 産むだけ産んで、ほったらかし。あとは知らないなんて、それこそ私の母と同じ仕打ちじゃないか!
 この子がこの屋敷に残るなら私も残ろう。逃げることができるなら一緒に逃げよう。そうして一緒に帰ろう。貴族になんか渡すものか。

 赤ちゃんごめんね、不安にさせたね。一緒にいるからね。

 それから夢は変わった。長い黒髪の女性が私の赤ちゃんを抱き上げてほおずりをする。

――可愛い女の子ね。
――いい匂い。
――頬はつやつや、黒い髪、きれいな黒い瞳。
――とっても賢そう。
――鼻も高くて、きっと美人になるわ。
――いい子ね、いい子…

 数ヵ月後、私は黒髪の女児を産んだ。開いた目は見事な黒い瞳だった。

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